Q1:収益認識基準とインボイスのギャップ
ご相談内容
資本金5億円未満かつ非上場企業の経理です。将来的な展望(増資や上場)なども踏まえて収益認識会計基準を導入していきたいと思っていますが、インボイスとの整合性がどうすればいいか知りたいです。とくに代理人(仲介者)行為と思われる取引が多々あることから、売上高への影響も大きく難しいです。
ご相談の回答
収益認識会計基準にはいくつかの論点がありますが、その中の代理人(仲介者)行為を端的に整理すると「売上と原価両方で膨らませた部分を両方そぎ落とす」行為と考えるとわかりやすいかもしれません。銀行融資などで「運転資金借入は売上高の3か月分相当」などというなんとなくの商慣習からも、「売上高日本一!」などの宣言文句からも、売上高をなるたけ大きく膨らませる傾向にあったのも事実かと思います。カラダ(総売上高)が大きいことが正義、というような。そこに、「国際会計基準」つまり、世界標準のモノサシが入ってきたわけです。だぶついた売上≒原価のようなものシェイプさせ、純売上額はいくらなの?というのを示す場面が出てきたわけです。細マッチョな、質実剛健な企業こそ正義、と企業の美意識の転換も求められているわけです。ひとつのメリットとしては、自社を通過させる原価の上下によって売上高が乱高下していたものが安定しますし、特に、売上高総利益率が安定することは最大のメリットと考えます。
話しを質問に戻しますと、法人税においては「所得」に対して税金をかけますので、売上と原価が両方減っても、税金計算には実質影響がないと思います。
がしかし、消費税は違います。とくにインボイスの世界との食い合わせは非常に悪い、と言えます。
収益認識会計基準において、本人取引ではなく、代理人取引とされると、(売上+原価)の両建てではなく(売上―原価=手数料相当額のみ)を計上することになります。
ただ、購入者側は、その先でどう利益がワケッコされているか知り得ないので、インボイスに従ってあなたの会社から買った、とだけ申告します。無論、2枚のインボイスに分けて購入者側に提示してもいいですが、当社の収益構造が見えてしまうので、あまりやりたくはありません(ただし、不動産屋さんのように誰もが知っている3%の仲介手数料などはいいのでしょうが)。ですので、従前通り、総売上高にて、売上計上し消費税を計算することになります。
その後、収益認識会計用に、売上の取消し≒原価の取消し、を決算整理仕訳などで調整していくことになります。
収益認識会計とインボイスの両方の顔を立てる為には、2通りの売上高や原価が存在することになります(代理人取引があった場合)
深堀
収益認識会計基準は全ての国内企業が適用出来ますが、強制適用の義務がない会社にとってはまだまだ導入に踏み切れない企業がほとんどでしょう。ただし、取引相手先が適用企業であった場合、これまでなかった書類や取引形態を求められることも増えてくるでしょうから、やはり、知っておくべき処理、であることは間違えありません。特に、上記のような「本人取引」なのか「代理人取引」なのか、はよく出くわすことになりますので、内容を知っておくことは重要です。
収益認識会計基準では、「本人」と「代理人」の区分がとても重要となります。当社が自ら商品やサービスを提供する履行義務があるか(適用指針第39項)、当社が単なる代理人に該当するか(適用指針第40項)です。
当社が事前に商品を仕入れ(商品の実効支配)、価格決定権があり、購入者側へ一次的な責任がある、ならば「本人」でしょうし、そうでないならば「代理人」である可能性があります。
また、収益認識会計基準下での消費税の申告に際して注意すべきは、消費税申告書第1表「基準期間の課税売上高」です。あくまでも消費税額計算に際し利用した2期前の課税売上高が反映されている必要がありますので、決算整理後の変更後売上高などを抽出しないよう注意してください。
この収益認識会計とインボイスの不一致を是正することを好機とし、例えば、100の取引の内、当社が10でB社が90ならば、これまで購入者に対し当社が100を請求し、B社に90支払っていた場合、当社は100の回収リスクとクレームリスクも購入者との間で負うわけですので、当社は10、B社から購入者に直接90のインボイスを発行してもらう、ことも検討すべきかと思います。収益構造は赤裸々になってしまいますが、インボイスも絡め、回収リスクとクレームリスクから解放されるもの一案かもしれません
と同時に、消費税的にもメリットがあります。売上高が5億円以下かつ課税売上割合が95%以上ならば、仮払消費税が全額控除出来る、という特典もありますので、売上高が5億円前後の会社は検討すべき会計処理かもしれません。