Q2:日本に住んでる父が亡くなった
ご相談
アメリカ人と結婚し、私は20年以上前からミシガン州に住所を移し生活しています。日本国籍はあります。先月(9月21日)、日本の神奈川県相模原市に住む父が亡くなりました。お葬式は無事終わり、父の叔父叔母から、「相続人はアナタだけだから相続の手続きを。」と言われました。何をどうすればいいかまったくわかりません。父は、自宅の土地・建物、銀行預金、上場株式をもっていたと思います。父は外国での財産はありません。帰国のタイミングも限られており、次回、49日の帰国のタイミングで出来る限りのことをしておきたいと思っています。
ご相談の回答
まず、やるべきことを順を追って整理し、注意点をその後に書きます。
STEP1
日本の相続税の申告期限は10か月後、つまり9から2を引いて、来年の7月21日であることを確認。提出先は父親の神奈川県相模原市の住所を担当する相模原税務署。この2点をまず確認してください。それから、これまで所得税の申告を出していたかどうか、を確認してみてください。書類があればいいのですが、自分のパソコンで電子申告しているケースも増えてきたのでご注意ください。
STEP2
「納税管理人届出書」を用意提出してください。「納税管理人届出書」は「相続税・贈与税」と「所得税・消費税」の2パターンがありますので、お父様が所得税の申告もされていた方ならば、4か月後までに1月1日から9月21日の所得税の申告書も提出しなくてはならないので、2パターンの納税管理人届け出を税務署に出してください。所得税の申告をしていた方ならば、担当税理士いればその人に依頼するのが最短でしょう。いないならば、親戚の方などにお願いしましょう。また、市役所にも「納税管理人申告書」を提出し、住民税や固定資産税の納税関係の管理人をお伝えください。なお、これらの書類は最近押印がいりませんのでその点はだいぶ楽になりました。
STEP3
銀行や証券会社の残高証明書の発行(9月21日現在)や口座の解約、不動産の納税証明書の取得などなどを集めなければなりません。コロナ禍以降、銀行窓口は来店予約などが必要で、それ以外は郵送で、という感じですので、このSTEP3が一番手間かかるはずです。窓口来店ならばパスポートで本人確認を代用してくれるケースもありますが、郵送ならば各金融機関のホームページからダウンロード、もしくは郵送されてくる書類に押印し送り返すことになります。がしかし、どこに郵送?押印(印鑑証明書がないはずです)は?というとことでここで作業は座礁するはずです。それぞれの制定書式に、領事館に行き、在留証明書(住民票に該当)、サイン証明書(印鑑証明書に該当)をもらう、が正解です。が、すべての金融機関の制定書式を集めるだけで数年かかりそうな気分になるなずです。
STEP3の深堀
ここで、実際に効果的だったのが「委任状」です。説明します。金融機関によって受け入れてくれる場合とそうでない場合があるので全てとは言えませんが、私が実体験したケースにおいては、銀行6行、証券会社3社、不動産の売買(未利用となる不動産を売却したので)の初動において、下記記載の「委任状」が非常に有効でした。このオールマイティ委任状を3通ほど作成しメールで海外へ。そこでプリントアウトしてもらい、在留証明、サイン証明をそれぞれにもらい、海外から郵送してもらいました(一番下のは税理士法で税理士のみですのご注意)。基本、原本還付でグルグル回し利用しますが、複数あった方が効率がいいので3通用意してもらいました)
一.被相続人の財産に関する現存調査の請求及び調査結果受領
一.被相続人の財産に関する残高証明書の発行依頼及び証明書の受領
一.被相続人の財産に関する財産の解約、名義変更、受領、換価手続き、現金引出、送金
一.被相続人の財産に関する貸金庫の解約及び内容物の受領
一.被相続人の財産に関する相続手続の一切
一.被相続人の日本国における納税管理人業務
一.被相続人の日本国における相続税申告書作成及び提出、納税の代理
この委任状で、多くの障壁を乗り越えることが出来ました。金融機関としても、海外の相続人とやり取りをするよりもよほど簡単でしょうから、受け入れてくれる(はず)です。
STEP4
(不動産+現預金+上場株式)の合計額が、3600万円を超えているかを確認してください。相続人1名の場合、これを超えてくると必ず相続税が発生します。
STEP5
相続財産の総額を固め、相模原税務署へ申告を行います。出来れば、STEP3の委任状で委任した信頼できる人の預金口座を使わせてもらうと良いでしょう。いったん、その受任者名義の使っていないような口座の残高をゼロにしてもらい、そこに、解約が済んだ預金などを集め、そこから納税し、残った残金を海外送金してもらう、という段取りです。ですので、納税管理人=受任者=信頼できる人 とするのが良いでしょう。
良くわかりました。他に注意すべきポイントはありますか?
①1億円以上の株式が相続財産にあったか?
アナタのような国外に住んでいる人が、父親の上場株式を相続する場合、相続開始の時点で1億円以上の株式を所有していたならば、その相続開始の時(9月21日)に、その株式を実際に売却してなくても売ったものとみなして、その相続対象資産の含み益に対して所得税(翌年1月21日)が課税される制度があるので、これ、すごく注意が必要です。所得税率は15.315%ですので、2億円株式があったら最大3千万円ぐらいの納税問題になります。
ただ、実際に売ってもいないのに、納税をしなさい、と言われてもアナタは困るでしょうから、一般的には、納税の猶予(ちょっと納税を待ってくださいの申請)をします。
納税猶予の特例の適用を受けるための要件
イ 準確定申告書の提出期限までに、相続対象資産を取得した非居住者である相続人等の全員が、原則として連署による一の書面で、所轄税務署へ納税管理人の届出をすること。
ロ 準確定申告書に納税猶予の特例の適用を受けようとする旨を記載すること。
ハ 準確定申告書に対象株式の明細など一定の書類を添付すること。
ニ 準確定申告書の提出期限までに、納税を猶予される所得税額および利子税額に相当する担保を提供すること。
+納税猶予期間中は、各年の12月31日において所有している株式について、引き続き納税猶予の特例の適用を受けたい旨を記載した届出書を翌年3月15日までに、原則として連署による一の書面で、所轄税務署へ提出する必要がある。
非居住者が相続した(する)株式合計が1億円以上、ではなく、被相続人が所有していた株式合計が1億円以上、である為、今回のケースだけではなく、相続人の誰か1名が非居住者である時も、上記の制度を気にする必要があります。
②不動産の売却時の税金申告は必要か?
相続税の申告も無事終わり、では未利用となった自宅についてはどうするのか?という問題が生じるはずです。固定資産税や電気・ガス・水道は?庭木の手入れ、近所への説明は?となります。ならば、思い切って処分する、という選択肢もあるでしょう。無論、アナタが帰国時に利用するば、という意見も出たりするでしょうが、ホテルの方が楽じゃん、というようなところで落ち着くケースも多いです(毎月のライフラインの費用や、その支払い作業を納税管理人にいつまでもお願いしていられないという観点からも)。
結果、「売却」となった場合、不動産会社に売却した場合などで売却代金の10.21%の源泉徴収がなされた残金が振り込まれることになります。
ただ、源泉されていようとされてなかろうと、翌年3月15日には、不動産の売却に対するアナタ自身の所得税の申告を日本で行わなければなりません。取得原価が分からない場合は、源泉徴収額プラスアルファの納税が生じる可能性があります。
つまり、相続税を納税し、不動産を売却し、その残金については、不動産の譲渡税の精算が完了するまでは納税管理人のところでしばし様子を見ておいた方が良いでしょう。アナタ名義の不動産の譲渡税の所得税申告が終わった段階で、ようやく、相続財産の精算振込が出来る、と思っておいてください。
また、アメリカにおいて、国外不動産(日本)の売却の申告もお忘れなく。