Q:未成年の子供への株式贈与
ご相談内容
私が経営する会社が順調な業績を重ねており、私自身、まだ相続を考える歳ではありませんが、今の内に6歳の私の息子に株式をすべて贈与したらどうか、と顧問税理士より提案をされています。注意点・問題点を教えてください。ちなみに、提案されているのは、全株式、現段階で総額900万円ぐらいの贈与金額になるそうです。
ご相談の回答
今後の相続などを考え、順調な会社の株式の評価額が上がってしまう前に子供に株式を贈与する、という考え方はあります。上記前提の中で注意点・問題点を指摘します。
①その贈与は有効か?
贈与金額が900万円となると、191万円の贈与税が発生することになります。その贈与税は無論、子供の口座から出ていくことになるわけですが、父親の会社の株式を、贈与税を支払ってまでもらう意思決定を誰がしたのか、という問題です。
子供は未成年者ですので意思決定能力がありませんので、通常のことならば、親権者であるあなた方夫婦共同で「親権者代理人」として判断するでしょう。また、利益相反行為ならば特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりませんが、こと、贈与に関しては、息子さんに一方的に有利な契約であるため利益相反行為にも該当しないということになっています。
よって、息子さんに対する株式贈与は利益相反行為に該当しないため、特別代理人選任は不要で、親権者がOKすれば息子さんが贈与の事実を知っていたかどうかにかかわらず贈与契約は成立します。民法上はそういうことになっています。
ただし、税務は難解です。やっかいです。息子さんにとって絵に描いた餅のような財産を押し付けるのは是か非かを含め、十分理論武装と様式武装を尽くさなければならないと私は考えます。プラス財産をもらうだけだからOKではありません。贈与税という支出を伴う以上、やはり、他人の会社株式をもらう時と同様の判断基準が必要だと考えます。また、贈与税の申告自体、アナタが息子さんの代わりにするのでしょうから、場合によっては、息子さんの名義を使っただけの「間違った贈与税申告」として、その贈与税申告自体の取り下げを求められるケースもあるからです。
また、今回のように、アナタの会社株式の贈与ですから、タイミングから何から、すべて自作自演が出来るわけで、株価が急激に上がる直前に贈与することだって可能なわけです。上場株式のインサイダー取引と同義となります。ですので、株価が大きく動く事実が分かる時は控えること、です。M&Aで多額な売却話が来ています、とかですね。上場企業のインサーダー取引規制を借用して、株価が平坦である時期にするべき、と考えます。また、有効性を担保する為に、金額の大小問わず、「配当金」を出すことも検討してください。やはり、株式から得られる「果実」を誰が得ているか、が非常に有効になりますし、贈与の時点確認にも有効です。
②会社の統治は?
現在の案ですと、株主がすべて6歳の息子さんになるわけですから、定時株主総会における父親であるアナタの役員報酬や役員重任、解任、配当金の有無などの決定権はすべて息子さんが握っていることになるわけです。ただその権利行使は親権者代理人としてアナタが行うでしょうから、経営と資本が「引き続き」一体となっていることになります。それすなわち、「贈与」が行われたかどうかの確認が対外的にもしずらいわけです。株式の移動の有無は、「法人税別表2」と「法人事業概況説明書」で確認します。くわえて、定時株主総会議事録の記載がキモになります。息子さんの財産を棄損させない決議においては親権者代理人で十分という意見もありますが、株主である息子さんと、会社経営者であるアナタとの利益相反行為に対し、誰がジャッジをするのか、がキモになります。
深堀
「じゃあ、どうしたら?」ですが、今後確実に上がっていく株式を贈与するのに適しているのは、「相続時精算課税贈与」なのですが、これは60歳以上の親から18歳以上の子・孫なので、絶妙に上記の事例とは外れていますね。上手く出来ています。というか、うまくいかないもんです。
上記事例において、私が意見を求められたならば、「100%の株式贈与」という極端なことはたぶん勧めないかと思います。まあ、事例にもよりますが。
「実質的支配者となるべき者の申告制度」の考え方を準用し、51%は引き続きアナタが株式を保有する、という選択肢も検討してみてください。それがリアルですし普通議決権の行使は満たされているので会社の舵取りは出来るはずです。
将来において、会社が成長し株価100億円の企業になったとしましょう。20代30代になった息子さんは、アナタを解任し、もしくはアナタの会社を誰かにそそのかされ第3者にシレっと売却して現金化しまうことだって可能なわけです。「ここまで大きくしたのは私がウンヌン」といっても後の祭り。いつまでも6歳の息子さんではありません。だって、遠の昔から、アナタの会社ではないわけですから。資本(株式)とは後で爆発する時限爆弾みたいなものと考えてください。良くも悪くも。です。
つまり、のちのちの税金問題以外も考えておかなくてはならない大事なことって、以外にあるものだと思います。